#16 切実なる思いとともに、ユニバーサルデザイン。

喜劇王チャールズ・チャップリン(1889年- 1977年)の活躍した時代には、当然「ユニバーサルデザイン」という概念はありませんでした。

チャップリンが喜劇映画を制作した時代は音声の無いサイレント映画から声を発するトーキー映画へ移行する時代でもありました。チャップリンは世界中の人が自分の作品を楽しんでもらいたいという思いから、頑にサイレント映画にこだわりました。
彼はパントマイムこそが世界共通語だという信念を持っていたからです。

国籍や人種にこだわらず、全ての人を受け入れたいという思いこそが、まさにユニバーサルデザインの思想の原点なのではないでしょうか。

◆◆◆◆◆◆

さて、ユニバーサルデザインのお話。
人は誰でも年齢を経るごとに身体の色々なところが弱ってきます。

こんなことがありました。
スマートフォンで受信したメールを見ながら、コンビニ用の端末に何桁かの管理番号を入力しようとした時のこと。間違いなく入力したつもりが、何度やってもエラーになります。

目を見開いてメールを確認しますが、「8」が「6」に見えたり、また「3」に見えたり、見れば見るほど判らなくなってきます。

加齢による視力の衰えですね。

名刺を見てメールアドレスを入力しようとする時、「S」と「3」の区別が付かなくなったことって、ありませんか?。

今、これを読まれている貴方が若くて元気でも、いつか通る道です。笑ってられないですよ、これは喜劇ではありませんから、ホント。

◆◆◆◆◆◆

いろんな企業がユニバーサル・デザインに取り組んでいます。
「6」の字体を少し変化させて「8」や「3」との判別をしやすくしたりするのが、ユニバーサル・フォント(UDフォント)という方法。

2006年に松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)が株式会社イワタと共同開発した「イワタUDフォント」が最初です。

OA器機の表示やリモコンの表示に利用されました。

その後、株式会社モリサワのUDフォント、大日本スクリーン製造株式会社のヒラギノ版UDフォント、株式会社タイプバンクのUD書体シリーズ、株式会社モトヤのUD対応フォントなどが出て来ました。

◆◆◆◆◆◆

現在、UDフォントが有効に利用されているのは、
・役所、病院、公共施設などの手続き用紙。
・器機メーカーの取扱説明書。
・薬品会社や食品会社の成分表。
・金融会社、保険会社の約款や説明書類などがあります。

◆◆◆◆◆◆

ユニバーサルデザインの本来の考え方は、老若男女、障害の有無、国籍の違いに関わらずできるだけ多くの人が利用できるようなデザインにすること。

簡単には言えますが、実践するにはとっても難しいテーマです。
あらゆる人が利用できる条件となると、本来のデザインから、かなりかけ離れた仕上がりになります。

そこで、制作物件がどんな人を対象とするのかを限定する必要があります。
例えば、視覚の弱さのレベル、聴覚の弱さのレベル、どこの国の人か、身障者のレベル、左効きを含めるか、妊産婦を含めるか、といった幾つかの条件を切り分けたり、組み合わせたりして企画するのが良いのかも知れませんね。

◆◆◆◆◆◆

当社にはUCDA:一般社団法人ユニバーサル コミュニケーション デザイン協会の2級を取得済みのデザイナーがいます。
印刷物件におけるユニバーサルデザインの外部認証取得のお手伝いをすることができますので、ご興味のある企業様はお問い合せください。

◆◆◆◆◆◆

チャップリンがサイレント映画を止めて、初めてトーキー映画を撮った作品が「モダン・タイムズ」でした。
物語りの途中で一部だけチャップリンが声を発するシーンがあります。観客はどんな声で話すのだろう?やはり英語で話すのかな?と期待をこめて、そのシーンが来るのを待っていました。

その声は歌でした。
やはりチャップリンの作品は世界共通語でした。彼はそれに強くこだわったということを感じます。トーキー映画でもこの方法があったのか、と改めて納得させられます。

まだ、ご覧になられていない方のために、これ以上ディテールに触れることは避けましょう。
実際にご覧いただいて、笑いと感動とともに、チャップリンの思いをしっかりと受け止めて頂くのが良いかと思いますから。