#9 2013年のはじめに

年明けにふさわしいクイズを出しましょう。

次の3つのヒントから連想されるものはなんでしょう?
・ 月見草
・ コノハナサクヤヒメ
・ 三十六景

答えが浮かんだら、次をお読みください。(浮かばなくてもいいですよ)

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答えは「富士山」です。(末尾にて解説)

今年(2013年)6月に世界遺産委員会がカンボジアのプノンペンで開催されます。日本人として関心が高いのは、富士山がいよいよ世界文化遺産に登録されるのか、どうか。富士山は2007年に世界文化遺産の暫定リストに登録されていて、今年はその決着が付く年です。

「文化遺産」の候補と聞いて、不思議に思われたかも知れません。どうして「自然遺産」じゃないのかと。

ユネスコの世界遺産に登録しようという運動が起こったのは1990年代の初めの頃、当初は自然遺産へ登録しようと検討していたそうです。しかし、いくつかの問題がありました。
ひとつは登山道にゴミが多いということ。
海外の登山家の間でも有名なくらいでした。それだけ日本人がよく登っているということですね。
日本人にとっては、登山の山ではなく、その威風を拝んで魂が癒される山です。心のふるさとだからこそ、良くも悪しくも第一級の観光地となった結果なのでしょう。

また、「特異な自然」ではないということ。コニーデ型と呼ばれる円錐形の山は世界にはたくさんあるそうです。
とはいえ、富士山のように裾野が広くて、どこから眺めても綺麗な円錐形の山は他にはないようにも思えるのですが。

そして、開発の手が入り過ぎて、本来の自然が保全されていないこと。
五合目まで自動車用の道路が通じて、五合目には観光バスが駐車できるような大型駐車場や土産物売場、食堂などが設営されています。山頂には郵便局があり、自販機があります。これでは「自然遺産」は難しいかも知れません。

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そこで、世界遺産登録にむけて、富士山の文化的側面が見直されることになりました。
富士山は奈良時代より火山神(浅間神)として信仰されていました。今でも、全国には1,300社の浅間信仰の神社があります。富士宮市に鎮座する富士山本宮浅間大社が総本山で、富士山を神格化した浅間大神(あさまだいじん)、木花咲耶姫命(このはなのさくやひめのみこと)が祀られています。また、江戸時代には富士講が盛んになって、たくさんの参拝者が富士詣をしました。「講」とはみんなでお金を出し合って参拝に行こうという庶民の工夫ですね。冨士講は、関八州を中心に、信濃、越後、奥羽、長門の方まで分布していたそうです。

そうして、富士山が人々の身近な信仰対照となった時に北斎が「冨嶽三十六景」の連作を描きました。
これらの浮世絵がヨーロッパに渡ると、海外の芸術家たちにまで影響しました。
ゴッホやセザンヌ、ロートレック、マネやモネに衝撃を与え、彼らを西洋絵画の写実主義という呪縛から解放しました。
また、ドビュッシーに強烈なインスピレーションを与えて、「海 – 管弦楽のための3つの交響的素描」が生まれました。因みにこの管弦楽曲は近大音楽史上最も重要な作品のひとつだと言われています。

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富士山は日本人の精神的なよりどころのひとつ。その圧倒的な存在感を持つ優雅美は世界に誇れるものです。
「信仰」と「芸術」から見た文化的価値をユネスコにぜひ認めてもらいたいですね。

また、政府が推進するビジット・ジャパンでは、2013年までに訪日外国旅行者数を1500万人にすることを第一目標に掲げています。
富士山が世界遺産になれば、追い風になることは間違いないでしょう。

Z-CARD®は世界遺産というコンテンツでは飛騨の白川郷の観光案内や紀伊の熊野古道の参詣道案内に利用されています。
熊野古道では観光客へのマナーを順守してもらうための「参詣道ルール」も記載いたしました。
Z-CARD®を富士山の登山道の案内に利用してもらえれば、美観保全にも応用できそうに思います。

今年もZ-CARD®が新たな活躍ができますよう、ぜひ皆様のお力添えをよろしくお願いいたします。

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冒頭のクイズの答えについて、簡単に解説いたします。

・ 月見草:太宰治の短編小説「富嶽百景」にある有名な一節「富士には月見草がよく似合う」。富士山の悠久なる雄姿と月見草の健気(けなげ)で儚げ(はかなげ)な様相を対比させた印象深い言葉です。太宰治はこの言葉をきっかけに生きる力を回復します。太宰の多くの作品は彼の人生が背景に絡んでいます。御坂峠(山梨県)にこの名文が刻まれた碑が建立されています。

・ コノハナサクヤヒメ富士山を神体山とする富士山本宮浅間大社と、国内の約1,300社の浅間神社に祀られています。火の神であり(社伝では水の神)、「活火山である富士山」を鎮めるために祀られています。すなわち、「地震大国・日本」のマグマを鎮めるために、1,300の神域で祀られているといっても良いのではないでしょうか。

・ 三十六景「冨嶽三十六景」。葛飾北斎が描いた浮世絵。1823年(文政6年)頃から作画が始まって、1831年(天保2年)頃から1835年(天保4年)頃にかけて刊行されました。発表当時の北斎はなんと72歳。その彼の作品が世界の芸術家たちに大きな影響を与えることになります。

北斎の元気にあやかりたいものですね。最後になりましたが、皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます。