#19 コミュニケーションとコトバの正体 〜戸惑いのおもしろ風味をそえて〜
※本記事は、2014年当時に配信したメールマガジンを、ホームページ掲載用に一部表現を整えたものです。
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コミュニケーションの最小単位とも言える「コトバ」について、考えてみたいと思います。
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その前に、この紙面について、以前から読者の方より「もっと面白くしてほしい」というご意見をいただくことがあります。
ビジネスの参考にしていただくというコンセプトではありますが、面白さも大切な要素なのかもしれません。
ご要望をいただけるということは、読んでいただいている証拠でもありますから、こちらも何とか応えたいと思うわけです。
ただし、これがなかなか難しい。
面白さのツボは、意外と人それぞれだからです。
興味深く、面白い内容にしたつもりでも、思ったほど反応がないこともあります。
そのため、少し試行錯誤しています。
今回も、そんな試行錯誤の延長線上にある内容になるかもしれません。
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突然ですが、「デコポン」という名前は、実に不思議だと思いませんか。
ここで、コトバの話に戻ります。
このあいだ、デコポンをいただきました。
その場で3つ平らげました。甘くてさわやかで、とても美味しい。
デコポンは、「清見」と「ポンカン」の交配で生まれた品種で、品種名は「不知火(シラヌヒ)」です。
さらに交配させたものが「甘平」、枝変わりさせたものが「大将季」。
柑橘の品種はまだまだ増えています。深みに入っていくと、実に複雑な世界です。
「デコポン」は、熊本県果実農業協同組合連合会の登録商標です。
確かに、てっぺんに「でこ」のような突起があります。
「ポン」はきっと、親品種である「ポンカン」から来ているのでしょう。
では、「ポンカン」はといえば、インドの地名「プーナ(Poona)」に由来するらしい。
「プーナ」の「柑」で、「ポンカン」です。
つまり、「デコポン」のルーツをたどっていけば、インドの高原にたどり着くというわけです。
モノにはふさわしい名称があり、そこに落ち着くまでには、コトバ同士の競争のようなものがあったはずです。
「デコポン」は「不知火」とはまったく違う印象を与えます。
やはり「デコ」の「ポン」という響きには、勝ち残るだけの力があったのでしょう。
その理由は、「分かりやすく」「言いやすく」「覚えやすい」という、ネーミングの3原則にはまっていたからではないでしょうか。
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「コトバ」は、時代、世代、分野、地域ごとに絶えず生まれ、消え、編集されていきます。
時には、コミュニケーションの範囲を限定することもあります。
例えば、専門用語です。
デザインという分野にも、専門的なコトバがあります。
文字の大きさを示すのに、昔は「歯」という単位を使っていました。
これは、写植の時代の呼び方です。
当時は、写真植字機を使用していました。
印字位置を変える時に印画紙を移動させるため、ラチェット、つまり歯車を回転させます。
その送り幅が0.25ミリでした。
パソコンで文字が打てる時代になると、歯車は電子に置き換わりました。
それに伴い、「歯」というコトバは次第に使われなくなり、ミリやポイントに置き換わっていきました。
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「Web」と言えば、今では多くの方が分かるコトバです。
意味は「蜘蛛の巣」。
インターネットの世界で、網をかけるように自社の情報を配置し、閲覧者が訪れるのを待つというビジネススタイルも、そこから汲み取ることができます。
「ホームページ」と言うと、やや静的な印象になります。
一方で「Web」と言うと、情報同士がつながり合う、動的なネットワークのイメージが強くなります。
言外の微妙な意味を含めて、的確に伝えることができるコトバが専門用語です。
これを会議などで使用すれば、短いコトバで多くの内容を伝えることができます。
議論の高いところまで、近道をすることができるのです。
企画会議では、限られた時間の中で結果を出さなければいけません。
そのため、こうした「近道コトバ」が必要になるのです。
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業界用語も、実は不安定です。
印刷業界では、「ケント」「網点」「裏移り」「階調」のように、時が移ってもぶれないコトバがあります。
一方で、最近使われるようになった「プルーフ」のように、意味がやや曖昧なコトバもあります。
困ったことに、この「プルーフ」は、さまざまな場面で使われます。
時に「校正紙」という意味だったり、「校正用の機械」という意味だったりします。
あるいは、「色校正」を指して使われることもあります。
このように、同じコトバでありながら、場面によって意味が変わってしまう場合があります。
曖昧なコトバは、せめて企業内で意味をしっかり固定させ、共有できる言語ブロックにしてから使用しなければいけませんね。
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若い世代では、コトバがすぐに編集されます。
「美味しい」「かっこいい」という意味で「ヤバイ」を使う人が、10代から20代までの間では、7割もいるそうです。
例えば、先ほどのデコポンも、若い世代の言葉で表現すれば、
「このあいだいただいたデコポン、とてもヤバかったです」
ということになるのかもしれません。
もちろん、本当に美味しかった、という意味です。
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松岡正剛さん、編集工学研究所所長の著書によれば、平安貴族は「あわれ」というコトバで無常観や哀愁を表現していました。
しかし、時代が変わると、鎌倉武士たちは「あっぱれ」という褒めコトバに言い換えたそうです。
コトやコトバに対する価値観は、死生観の変遷とともに編集されていきます。
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「ヤバイ」は、1980年代までは、若者たちの間でも「かっこ悪い」という意味で使われていました。
突然、意味が反転して錯綜したのが1990年代です。
この時代、不動産は暴落し、金融が破綻しました。
阪神大震災に襲われ、松本サリン事件も起きました。
不景気と社会不安が日本中を覆います。
就職氷河期という閉塞感の中で、若者たちの価値観の変化とともに、「ヤバイ」の語感も変質していきます。
大人との間に深い溝ができ、コミュニケーションそのものが、かなり危うい状況になりました。
若者たちは、無意識のうちにコトバという橋をかけ替え、自分たちの領域を作っていったのかもしれません。
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SNSなどのコミュニケーションツールが普及すると、若い世代の情報発信や交流の場は、そちらへ大きく広がっていきました。
今、LINEの利用者の中で、「読んだことが相手に通知される設定」を負担に感じている人が7割近くもいるそうです。
便利なツールでありながら、そこに負担を感じている人も少なくないということなのでしょう。
人と人とがお互いに理解し合うためには、正しくつながるコミュニケーションが大切です。
しかし、コミュニケーションは、人と人との間に漂っている、不確かで、かそけきコトバを使わなければいけないというジレンマがあります。
「かそけき」という言葉も、今ではあまり使われなくなったかもしれません。
コトバの正体を理解すること。
それが、コミュニケーションの根幹だと思います。
今回は、少しまじめに終わってしまいました。
また読者の方から、ご意見をいただくかもしれませんね。
〈参考文献〉
「花鳥風月の科学」松岡正剛(中公文庫)
「17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義」松岡正剛(春秋社)
Wikipedia「シラヌヒ」
モリサワホームページ「文字を組む方法」
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