#20 ヒューマンエラーは予防できる? 〜誰だって失敗するかもしれません〜
※本記事は、2014年当時に配信したメールマガジンを、ホームページ掲載用に一部表現を整えたものです。
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また、失敗をした。
あなたは、がっくりと肩を落として落ち込みますか。
悔しさを感じますか。
それとも、これも成長の過程だからと、自分を励ましますか。
「人間は失敗をする生き物である」
当たり前すぎて、誰もこんな格言は言っていないかもしれません。
しかし、誰も否定できないことではないでしょうか。
子どもでも大人でも、どんなに偉い人でも、失敗したことのない人はいません。
私もつい先ほど、お茶をズボンにこぼしてしまいました。
どうしようかと少し悩みながら、失敗について考えているところです。
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本田宗一郎さんは、少しひねった表現で、次のような名言を残しています。
「人間は失敗する権利を持っている。しかし失敗には反省という義務がついてくる」
失敗を「権利」と言い切っているところがすごいですね。
本田さんは、失敗そのものを否定するのではなく、そこから学ぶことに価値を見いだしていたのでしょう。
ちなみに、本田さんは1,000万円くらいでは失敗と認めなかったともいわれています。
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ところで、最も安全対策が進んでいる分野のひとつが航空産業です。
何百人という人の命を預かっているわけですから、安全管理も徹底しています。
NASA、アメリカ航空宇宙局が中心となって、1970年代から1980年代にかけて事故調査をした結果、ヒューマンエラーを原因とする事故が多く含まれていることが分かりました。
対人関係、思い込み、勘違い、言い間違いなど、人的要因が時に大きな事故を招きます。
1977年、大西洋のカナリー諸島にある空港で、KLMオランダ航空のボーイング747と、パンアメリカン航空のボーイング747が滑走路上で衝突する事故が起きました。
583名の方が犠牲となった、航空史上でも極めて重大な事故です。
当時は濃霧で、管制塔から滑走路を目視できない状況でした。
また、乗務員間の意思疎通や権威勾配など、複数の人的要因が重なったことも指摘されています。
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航空業界の安全管理対策では、「CRM」(Crew Resource Management)という訓練方法が採られています。
当初は個人のスキルアップに注力していましたが、現在ではチームワークが大切だという考え方に変わっています。
そして、「コミュニケーションの向上」こそが、最も重要な取り組みのひとつだと考えられています。
「CRM」の「C」は、当初はCockpitでしたが、現在ではCrewに変えられました。
人はやはり、協力し合わなければいけないということですね。
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また、労働災害を考える時、「ハインリッヒの法則」がよく知られています。
大きな事故の裏側には29件の軽微な事故が発生していて、さらにその裏には300件の事故の一歩手前の事例、いわゆる「ヒヤリ・ハット」が発生しているという理論です。
「1:29:300」の理論です。
ちょっとした油断が、最悪の事故に向かって連鎖するということですね。
ハインリッヒは、このヒヤリとしたり、ハッとしたりした情報を共有化すれば、事故の防止につながると考えました。
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心理学者のジェームズ・リーズン博士は、人間の作業行動におけるエラーの発生比率を調べました。
昔のダイヤル式の電話では、20回に1回エラーを起こす。
繰り返しの単純な作業では100回に1回、整備された環境下でも1,000回に1回はエラーを起こすそうです。
作業条件や作業環境にも大きく依存しますが、立場によっても変わってきます。
初心者はストレスを受けやすく、ベテランになれば、無意識の錯誤や不注意が増えることがあります。
特にベテランの省略エラーには注意が必要で、大きな事故に連鎖することもあります。
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ストレス耐性には個人差があります。
ちょっとした失敗なら気にしない人もいれば、強いストレスを感じる人もいます。
先ほどのズボンの件も、冷静に考えれば小さな失敗ですが、その瞬間にはなかなか気持ちが落ち着かないものです。
さて、時にヒューマンエラーは、組織に大きな損失を生みます。
ジェームズ・リーズン博士は、組織のあり方としての安全文化を勧めています。
・報告する文化
ミスの報告をしやすい組織にすること。
そこでは、リーダーシップのあり方が問われます。
特にヒヤリ・ハットを報告した時には、まずその報告自体を評価することが大切です。
上席者が引き締めることばかりに気を取られると、逆効果になる場合があります。
・正義の文化
ルールを無視した場合には、適切に注意し、必要に応じて処分すること。
安全規則の順守は必須です。
・柔軟な文化
状況に応じて分権的な組織を編成し、対応すること。
原因の分析、報告、対策といった細やかな内容になると、現場でしか理解できないことも多くなります。
中央集権的な構造だけでは、専門的な事象に十分触れない、表層的で意味の薄い報告書作成に時間を取られることもあります。
・学習する文化
他社で起こったミスや安全対策などから学び、改革を実行できる体制にすること。
他社事例から学ぶ姿勢が重要です。
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失敗にも個性があります。
タンスの角に足の小指をぶつける人。
お茶をズボンにこぼす人。
ジョージ・ワシントンは1798年10月5日にニューヨーク協会図書館で本を2冊借り、未返却のままだったという逸話もあります。
これもまた、興味深い失敗のひとつです。
先輩でも上司でも、人は失敗をします。
では、失敗する人が、他人の失敗をただ責めることができるでしょうか。
そう考えた時に、本田宗一郎さんの「失敗は人間の権利だ」という言葉が、深く感じられます。
もちろん、ルール違反や重大な過失を見過ごしてよいということではありません。
大切なのは、失敗そのものを感情的に責めるのではなく、原因を確認し、再発防止策を一緒に考えることです。
失敗を陰湿に責めてばかりいては、報告をする企業風土は生まれません。
上司の感情的な言葉や余計な一言は、部下にストレスだけを残してしまいます。
理性をもってルール違反を確認し、改善方法を一緒に考える。
これが、組織内における望ましい対応方法なのかもしれません。
気持ちに余裕がないと、何か起きた時に感情があふれたり、余計な一言がこぼれたりします。
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いつも心に「ゆとり」を持っていられるよう、自分を成長させること。
失敗に向き合うには、知識や経験だけでなく、心の余裕も必要です。
ズボンにも心にも、やはり少しのゆとりが大切なのかもしれません。
もちろん、ズボンは乾いていることも大切ですが。
〈参考文献〉
「機長が語るヒューマン・エラーの真実」杉江弘(ソフトバンク新書)
「失敗のメカニズム 忘れ物から巨大事故まで」芳賀繁(角川ソフィア文庫)
「医療安全に活かす医療人間工学」佐藤幸光・佐藤久美子(医療科学社)
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