#26 春に想う、いかなごと組織のあり方。(エンドレス仕上げ)

春がまだ浅い頃に、神戸の特に海寄りの家庭では、いかなごを炊きます。
酒と醤油とみりんと砂糖で煮立てます。煮汁がなくなった後、冷ませば濃密なオレンジ色のかぐわしいクギの集合体ができあがります。これが「いかなごの釘煮」という逸品。
関西圏では知られていますが、全国では知名度は低いですよね。

つまり、小魚の佃煮と言った感じでしょうか。佃煮って口にしてしまうと何か違うような気もしますが。みんながギュウって、くっついている感じは、おせち料理の「ごまめ」にも似ています。「ごまめ」も違うな、「私はお正月という特別な時だけですから」って、なんか威張った感じが、ヤですね。「いかなごの釘煮」は、よく見れば、みんなあっちこっちにひん曲がっています。まるで、小さい魚の団体競技。数千匹の組体操。全員赤組で頑張ったよ、みたいな。
そうか、そうか、えらいねって。でも、結局バラして、食べちゃいますけどね。

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いかなご。
実に不思議な名前ですね。魚ってわかりづらいし。魚は総じて不思議な名前が多いような気がします。「ごまめ」も長い間、豆料理だと思ってましたし。それと同格くらい不思議な名前。ちなみに「ごまめ」の語源は「こまかい群れ」なんだそうです。
じゃあ、「いかなご」だって「ちりめんじゃこ」だって「ごまめ」じゃないですか、ね。

「いかなご」は生姜で味を整えたり、料亭だと山椒で香りが付いていたり、白ごまが振られていたりもします。とにもかくにも、なかなかの絶品です。

そして、これが神戸に春を呼びます。食すれば、春が来るんです。

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春。
さて、当社は4月で、創業55周年を迎えることとなりました。
企業の平均寿命は23.5年と言われているそうですから、嬉しいかぎりです。
なかなか優秀な会社だって自慢したい気分です。
まるで、自分が社長にでもなったような口ぶりで申し訳ありませんが、きっと、こんなところから気分だって盛り上がってくるのだと思います。
会社も人も努力なくては成長いたしませんから。(と、申している私が成長していないのがナントモですが)

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成長。
高度成長期にはエスカレーターに乗っているかのように、どの企業も市場とともに成長していきましたが、短すぎる安定期を過ぎて、厳しい経済環境になると、企業本来の力が試される時がきます。地道な努力で前進していくしかありません。ひたすら歩む努力をいたしました結果、えー、今の我が社があるのだと確信いたして、えー(って、お前は社長か、ぜったい怒られるし)。

でもせっかくなので、もう少し会社の話を。
社名のコーユービジネスというのは、起業者である森内康雄会長の名前の部分「康雄」を音読みしたのが「コーユー」。人名を音読みすることを有職読み(ゆうそくよみ)と言うそうです。

昔、人を本来の名前で呼ぶのが失礼なので、音読みで呼んだそうです。
藤原定家(テイカ)、小野道風(トウフウ)、安倍晴明(セイメイ)とかね。晴明は本当の呼び方をしちゃうと、はるあき君でしょ。霊力あるの?ちゃんとできる?って心配になりそうです。
今だとホラー映画の「貞子」だったら「テイシ」ね。呪われたビデオをスタートするとテイシが出てくる映画です、なんて。

失礼、社名の話でした。ビジネスと後に続けたのは、ビジネス全般へ守備範囲を拡げられるように将来を見据えた森内会長の見識に因るもの。この判断のお陰で「印刷」という狭い業界に縛られずに、やわらかな思考で、いろいろなことに挑戦することができました。

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印刷。
この業界も諸行無常の宿命からは逃れられませんでした。
印刷は時代の流れとともに、押し寄せる電子の高波に呑みこまれました。版もフィルムも電海に沈んでしまい、媒体という役割は表示とプリントが担うようになりました。

プロモーションの手法は、アナログからデジタルへと活躍の場を変えていきました。情報は質量を持たない本来の姿に戻ったのかもしれません。

この窮地の中、私たちは求められるサービスとは何なのかを真摯に考えることになりました。

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サービス
当社は、データプリント処理という次代の業務内容を獲得できたことで、お客様に広くサービスを展開することができました。

業態という形式(フォーム)にとらわれず、どんなサービスができるかというコンテンツこそが大切であるという真理を森内は創業時に察知していたかのようです。

人と人との間にこそビジネスやサービスが存在します。人の心を動かさないとビジネスは存続できないということですね。
それこそが「働く」という動機付け、「モチベーション」なのかもしれません。

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モチベーション。
企業にとって最も重要なファクターです。

よくよく思い出せば、私たちがモチベーションを一番高く持っていたのは、多分子供の頃じゃないかって思います。
やる気ばかりがあるのに、どうしていいかわからなくて、とにかく何かをやってみたいって思ってたじゃないですか。だから何にでも夢中になれたし、いつも何か待ち遠しい気持ちでいっぱいでした。

身近にいる大人のたわいないほめ言葉で、モチベーションの針は振り切っていましたよね。
ほめ言葉、つまり評価や期待といった気持ちこそが力の源だったはずです。

しかし、残念なことに大人になると、モチベーションの対価を金銭に求めがちです。
対価を金銭に求めてしまうと、際限がなくなって満足ができなくなります。
まして、経済環境が苦しい時代では、組織が行き詰まってしまいます。

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組織。
人と人が上手く結びついている組織ほど、個人のモチベーションは高くなります。
個人の能力の多様性を認める会社ほど、人と人のつながりは強くなります。

自分と同じ考え方の人間に育てることははるかに簡単。自分と違う個性を評価することは非常に難しいことです。それを生かすこともさらに難しい。
まっすぐなクギばかりでは、固まりようがありません。みんなそれぞれに曲がり方が違っているからこそ、しっかりと組織として一体化することができます。

組織力を高めていくためには、そう、いかなごの釘煮のようにあるべきです。

当社は、おかげさまで、いかなごの釘煮のようです。だって、私のように変な方向にひん曲がったヒトでもちゃんと働いていられますからね。(って、誰がひん曲がってんねん)

どうか、そんな「いかなごの釘煮」をよろしく、じゃなかったコーユービジネスを宜しくお願いいたします。当社はこれからも、皆様の御高配を賜りまして、えー、70年、100年とより良き企業を目指しまして、えー、(って、おまえは社長か、もうええわっ)。

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